top of page

犬は人を下に見ないし、主従関係は存在しない

  • 執筆者の写真: くどう まやか
    くどう まやか
  • 4 日前
  • 読了時間: 11分

更新日:23 時間前



こんにちは!大阪市福島区にある犬の幼稚園、oluolu dog schoolの工藤です。


飼い主様とお話していると、時折

「うちの子は自分をナメている」

「主人だと思っていなくて、バカにしている」

「犬が私のことを自分より下だと思っている」

といったことを聞くことがあります。

お客様ではない友人と会話していても、自然と「順位」だとかいう言葉を耳にします。


詳しく聞くと、

・母のいうことは聞くが、父のいうことはきかないなど、家族に対してばらつきがある

・幼稚園に通っていたが、先生のいうことはきくけど自分たちのいうことは聞かない

・いたずらしたり、甘噛みをしたり、困ることばかりする

・特定の家族に対して、吠えや噛みなどの行動が出る

といった内容がほとんどです。


結論を申し上げますとタイトルにもある通り、犬は人を下に見ないし、主従関係は存在しません。序列も存在しません。

では、犬はなぜ「なめられている」と感じるような行動をとるのか、主従関係という概念がないというのはどういうことかについて、この記事で解説していきます。


・主従関係や上下関係論の原点


主従関係や上下関係論の原点



アルファシンドローム、またはアルファドッグ理論というのを聞いたことはありますか?狼が群れとしての機能を果たすためにリーダーの存在は不可欠であり、群れの中で絶えず起こる競争をアルファのメスとオスの攻撃行動によって統率する、という習性のことです。


狼を祖先に持つイヌは、「この習性を引き継いでいて、リーダーと認めた人のいうことを聞く」と思われていました。

しかし、実はこれはなんの科学的根拠もない理論なのです。


アルファドッグ理論はウソ?


野生で群れを成す狼がリーダーを創り、群れの中で競争が起きているというのはシェンケル(1947年)が狼を観察・研究したことでわかっています。

しかし、のちの研究で野生の狼と、捕獲した狼とでリーダーの概念が変わることがわかっていきました。

・食事や睡眠場所の確保(安全性)が出来ている環境では群れは機能を持つ必要がない

・そもそもイエイヌはオオカミを祖先に持つといわれているだけで別の種の動物である

上記のことから、犬に対してのリーダー論は当てはまらないと断言できます。


なぜ未だに主従関係・上下関係理論が論じられているのか


実は、1993年にはもうすでにドッグトレーニング協会で支配的なトレーニングはやめよう!という趣旨の論文が発表されていました。

しかしながら、主従関係理論に基づいた支配的なトレーニングはまだこの令和の時代にも存在しています。


ではなぜ、こんなにも長く主従関係や上下関係論が信じられてきたのでしょうか。

個人的な見解ではありますが、いくつか考えられる理由を記述していきます。


・番犬からペットへの移り変わり

鎖で外に繋いで番犬として飼われていた時代から、小型犬のブームによって犬への見方がペットに移り変わりました。

そして現在では、家族の一員として犬と暮らしている人が大半です。

日本では狩猟、害獣の捕獲、牧羊など犬としての仕事がほとんど文化として根付いていません。つまり、犬とのコミュニケーションの幅が非常に狭かったのです。

さらには、警察犬や盲導犬などチョークチェーンなどを用いてトレーニングをおこなうところからドッグトレーニング文化が広まったことも、長らく主従関係論が唱えられてきた要因でしょう。


・ペットブームの背景【悪質な繁殖】による気質

90年代後半から第2次ペットブーム(チワワやダックスなどの小型犬)により、爆発的に犬を室内でペットとして迎える家庭が増えました。

その背景で生まれたのが、パピーミルです。

みなさんはパピーミルという言葉を知っていますか?

パピーミルの実態 https://www.innuis.com/dog/241

※愛犬家のみなさんは閲覧注意です。

犬が好きだという人が見たら、うっと胸が痛くなってしまうような内容ですが、まだ実在しているというのがペット業界の実態です。


犬の骨格・大きさ・毛の色など見た目以外にも、性格・性質、そして疾患も遺伝します。

しかし、パピーミルのような悪質なブリーダーは性格・性質・疾患などについてはまったく考慮されません。

さらには、「ちいさくてかわいいほうが売れる」という理由から、以前は生後45日たつとショップに並んでいました。(現在は56日です)

充分に母犬からの愛情を受けられなかった犬は、精神的に不安定だったり、社会性がなかなか身に付かなかったりするものです。

※ドイツ・スウェーデンなどでは、生後8週齢未満の仔犬を母犬から離すことは禁じられています。


こういった悪質なブリーダーのもとで生まれた犬の中には、過敏さや攻撃性などを受け継いだ犬が産まれてしまうことがあり、そもそもペット先進国で生まれ育った仔犬とは気性が異なるのです。

攻撃性や興奮値が高い犬に対して、「上下関係が逆転している」「主従関係が築かれていない」という理由が、妙に納得しやすかったのではないかと思います。



・飼育環境と「問題行動」

たとえば、野山川海に囲まれたところに住んでいる犬の暮らしと、

人も犬も音も車も過密な都心に住む犬の暮らし、どちらのほうが「問題行動」が多いでしょうか?


正解は後者です。

たとえば吠え。隣の家が50メートル先にあり、車の音や人や犬の往来がないのびやかな田舎で暮らす犬たちは、吠えたところでそれは問題行動にはなりません。

そもそも刺激が少ない環境で暮らし、毎日のびやかに庭やら山やらを走り回ったり、刺激のない道をたっぷり散歩で歩いている犬は「吠える」といった行動自体が少ないです。


対して、過密な都心に住む犬はどうでしょう。

マンションに住む犬が吠えてしまったら、ご近所迷惑になるからとしつけを考えるでしょう。

お散歩中に出くわす犬や人に警戒してしまうといったお悩みも、そもそもそういった環境で暮らすからこそ「問題行動」となるのです。


問題行動とはいわば人間が「問題だ」というから問題なのであって、その行動には理由や環境要因が存在しています。

都会に住む犬たちは人に合わせなければならないことがたくさんあるのです。

・知らない人に吠えちゃだめ!

・匂い嗅ぎ、拾い食いしちゃだめ!

・家の中では吠えちゃダメ!

といった、人間社会で暮らす上で必要なルールはたくさんあります。

そこのネジが少しずれてしまって、「人に合わせるように教えていきなさい!それが犬を迎えた責務だ」という教えが根付いてしまったようにも思うのです。



主従関係がないならなぜいうことを聞かないのか?



こう思う人は、まず「いうことを聞かせる」という考えを捨てましょう

彼らも生き物です。そして、人間ではありません。


問題行動というのはあくまで人間が主体の行動であり、その行動そのものがいけないわけではないのです。

なので、問題行動やいうことを聞かない、というのは「私たちの望んだとおりにならない」「私たちが望まない行動をとっている」と置き換えられます。


犬がとる行動には必ず理由があり、それが飼い主さんの思った通りでないのなら、そもそもどうしたらいいかわからない・教えてもらっていないかもしれませんし、自分ではどうにでもならないような環境が要因なのかもしれません。


さほど教えなくても犬がいうことを聞いてくれていると感じるのは、彼らなりの愛情であり、人間に対して譲ってくれている部分なのです。

それを当たり前と思わず、じっくり犬と対話して、犬の言いたいことがわかるようになってくると、きっと愛犬との生活がもっと豊かになるでしょう。


人間の元で、人間の都合で暮らしてもらっている以上、なぜ犬が困った行動をとるのか、いうことを聞かないのかを観察して、「私は○○するから、代わりにあなたもこうしてほしい」という譲り合いの精神で犬とかかわってみましょう。


冒頭で挙げた例について、なぜそうなるのかを解説していきます。


母のいうことは聞くが、父のいうことはきかないなど、家族に対してばらつきがある


たとえば、ごはんの前のオスワリが題材だとしましょう。

お母さんはご飯の前にオスワリをしないと、ご飯をくれない。

でもお父さんはご飯の前にオスワリをしなくてもご飯をくれる。

といった学習によって、「ばらつき」が生まれます。


犬のやりたいことや欲しいものが手に入った経験や、逆にやりたくないこと(お手入れなど)から逃れられた経験によって犬の対応が変わるのは当然です。


また、お世話をする時間の長さもかかわってきます。

お世話をする時間が多い人の方が、犬もその人のことを理解することができるので、それが良く出たり悪く出たりするものです。

長く一緒にいる方が「まあいっか…」となあなあにしたことが多いと、犬はそれを学習していきますし、逆に毎回キッチリルールを守っていれば同じようにそれも学習していきます。


これは単純に、家族で共通のルールを設けてそれを徹底することで変化します。

人によってできる・できないがあるならば、出来る人の前後の行動をまねるだけで改善することがあります。


そしてそのルールを守ることが難しい時は、そもそもそのシチュエーションをつくらない、あるいはほかの家族がサポートしてあげましょう。

たとえば、

・お子さんが小さくてなかなか難しい

・酔っぱらっている家族がルールをなあなあにしてしまう

などです。ルールを犬が理解するまでは、一人の家族が率先してトレーニングを進めて、できるようになってから他の家族と練習するのも良いと思います。


また、単純に愛犬の性質と飼い主さんの性質の相性があります。

犬は人間の感情に寄り添ってくれる生き物として慣れ親しんできましたが、あんまり人間やまわりの感情に左右されないワンちゃんと、とっても繊細なワンちゃんと…性格は人間のように様々です。

特に繊細なワンちゃんは、ドキドキ不安定な人よりは、どっしり構えた人間の方のほうが”ぶれ”がないのです。


幼稚園に通っていたが、先生のいうことはきくけど自分たちのいうことは聞かない




これは前者と同じ理由と、トレーナーと犬との関わり方に理由が隠れています。


ひとつは、接する時間が限られていて、生活の中で問題が起こるようなシチュエーションが少ないことです。

どのように預かっている施設かにもよりますが、トレーナーが犬とかかわる時はいつもご褒美をもっていること、犬から目を離す時間がほとんどないことなどがあげられます。

これをお家の中でそのまま適用するのは難しいですが、ある程度の環境設定で真似できるでしょう。


もう一つは、単純に犬に伝わりやすいコミュニケーションスキルがあることです。

これはトレーナーとのコミュニケーションの機会を多く持ったり、グループレッスンや個別レッスンなどでレクチャーを受けることで身に着けることができるでしょう。


いたずらしたり、甘噛みをしたり、困ることばかりする




犬は人間を困らせたいわけではありません。

みんな大事な家族との生活を楽しみたいと思っています。


それでも困ることばかりするのは、

自分でもどうしようもないような気持のモヤモヤがあったり、本人は遊んでいるつもりで悪気がないケースがほとんどです。


これを改善するためには、犬がどうしたら気持ちのモヤモヤを静めて冷静になれるのか、どうしたら犬の遊びたい気持ちを人間が困らない範囲で満たしてあげられるのかが大切です。

犬が今の暮らしに満足していて、しっかりニーズが満たされていたら基本的には甘噛みやイタズラなどの困った行動は起こりません。


あるいは、甘噛みやイタズラをしたときに犬にとって「いいこと」が起こったり、遊びが成立してしまうとそれそのものが犬のニーズになってしまうことがあります。

人間が困らないようなコミュニケーション方法(遊び方)を1から教えてあげましょう。


特定の家族に対して、吠えや噛みなどの行動が出る


吠えや噛みが「嫌だ」という気持ちによるものの場合…たとえばお手入れがいやで噛んでしまうことだとします。

過去にお手入れをされて嫌だった、怖かった、不安だったという経験があると、攻撃的に噛むことがあります。

攻撃的な気持ちで噛む回数が増えれば増えるほど、犬はどんどんそれに対して過敏になっていきます。

また、不安や嫌な気持ちの大小関わらず、「噛んでいやなことから逃れられた」という経験が多いと、その人に対して噛むという行動が頻回に出るようになります。


「嫌だ」という気持ちの場合は対象の人間と穏やかにコミュニケーションが取れるようなステップアップが必要です。

極力犬の不安を脅かさず、安心安全のラインをしっかり守ってあげましょう。


「好きすぎる」という気持ちによるものの場合は、前項と同じように困らないコミュニケーション方法を教えてあげましょう。

甘噛みする代わりに、○○してね、という行動を教えていけば自然となくなります。


まとめ


いかがでしょうか?

述べた通り、犬が人や場所によって行動を変えるのは、そのほうが自分にとって良いことが起こると学習しているからです。

つまり、日々の生活を見直していけば、その理由は必ずわかります。


簡単に今回のポイントをまとめていきます。

・犬に主従関係や上下関係、序列は存在はせず、すべては学習の結果の行動である

・家族内でルールを統一する

・その行動が、嫌な気持ちからなのか、好きな気持ちなのからかを見極めて、それにあった対応をする

・犬にわかりやすく伝えるスキルを手に入れる


犬はとても賢い生き物です。そして、すべての動物と共通で不安・恐怖・危険と感じることには過敏に反応します。

主従関係を軸にしたトレーニングは、時にはそういったマイナスの感情で犬を制御するような手法を用いているケースがあります。(すべてがそうではありません)

そういった手法は行動を辞めさせるという意味ではとても効果があるように見えますが、犬の心を無視していることがほとんどです。




 
 
 
bottom of page