
こんにちは!大阪市福島区犬の幼稚園、oluolu dog schoolの工藤です。
本校では、犬の自主性を尊重して伸ばしていく陽性強化トレーニングを行っています。難しい言葉で言っていますが、ようは「NO」ではなく「YES」を伸ばして褒めて教えるスタイルです。
その反対は叱って教えるしつけ、つまり罰を用いた強制トレーニングを指します。
明確な体罰だけではなく、
・NO!と叱って望まない行動をなくす
・スパイクカラー(内側にトゲがついた首輪)や電気ショック首輪を用いたトレーニング
・大きな音を鳴らし(石の入ったペットボトルを投げる、風船を割る、何か物を落とす、大きく手を鳴らすなど)望まない行動を減らす
も含まれます。
もっと言うと、犬が威圧感を感じたらそれは犬にとっては体罰と同じ、強制トレーニングです。
ちょっと体を触っただけ、顔を触っただけ、その犬にとってそれが「こわいこと」と感じたらそれは叱ることと同じ意味を持ちます。
ただし、自分は主人、犬はペットだと考える方にはこの記事は該当しません。
あなたが愛犬を「家族」だと思っている、という前提で叱るしつけのデメリットについてお伝えしていきます。
今回は広く「叱って教えるしつけ」として、そのデメリットを解説します。
叱って教えるしつけの原点は「主従関係」や「リーダー」の考え方

オオカミを種の原点として持つイエイヌ。
オオカミは群れで行動し、リーダーがヒエラルキーの頂点に立って群れを統率するといわれています。
よって、犬もオオカミのその気質を引継ぎ、犬と人の関係性でもリーダーシップを示すべきだと言われてきました。
「リーダーと認識した存在に従順になる」
「問題行動はリーダーとして認められてないから」
といった理論から、叱るしつけが一般的に広まっていきました。
しかし、行動学が進むにつれ、実はこのリーダー論、犬に該当しないということがわかってきました。
まず、オオカミとイエイヌは進化の過程でまったく別の動物になったということです。
チンパンジーと人間、ネコとライオンが違うのと同じです。
オオカミから引き継いだ習性もあれば、犬種が確立される過程でイヌ本来の習性もたくさん生まれています。似ているようで別の種なのです。
そして、群れやリーダーの概念は不必要であるということです。
オオカミたちは自分たちで狩りをし、寝床を確保し、安全な睡眠を確保し、生き残るために群れでの役割を分ける必要がありました。
リーダー犬が獲物のもっとも栄養価のある部分を先に食べるというのはよく聞く話ですよね。
では犬たちはどうでしょうか。
住む場所、寝る場所、食べるもの、この命の安全が保障された人間との暮らしでは、そもそもそんなヒエラルキーは必要なく、存在しないのです。
つまり、別に犬が人の言うことを聞くからといってリーダーとして認められているわけではありません。
いうことを聞かない・困ったことばかりするからリーダーとして認められてないといったこともないのです。
このリーダーシップ論が多く広まったのは、
・人によって態度が変わる
・噛んだり怒ったりする
・物を守る(食べ物やオモチャなど)
・いうことを聞かない
・来客や他犬に吠える
という「なんでこうなるのかわからない」というお悩みと、オオカミが犬の祖先という先入観から人間が想像したことに過ぎません。
実際は、犬にとっていいこと・よくないことが積み重なった結果です。
例えば
触ってほしくないタイミングで触られた⇒いやだ!と噛んだらやめてもらえた⇒嫌なことをされたら噛む
甘噛みをしたときにAさんは無視していたけど、Bさんは手を動かしてくれて楽しかった
など、刺激に対する感情や、それに付随して起こした自分の行動、その結果で学習しているだけです。
また、知らない人や犬に対して不安な気持ちから吠えるのは、飼い主をリーダーとして信頼していないから不安になって吠えるんだ、なんて論もあったりしますが、そんなことはありません。
知らない人や犬に対しての不安に、リーダーだから、信頼関係の有無が…といった話は関係ないのです。
そのため、叱るしつけを行って、リーダーとして認めてもらえたから問題行動がなくなったり、逆に認められてないから治らないというわけではありません。
問題行動がなくなったとしたら結果的に人間の望むように学習ができただけですし、なくならなかったとしたらタイミングや方法が誤っていた・合っていなかっただけの話です。
叱るしつけのデメリット
まず、前提として犬たちは「危険」と直結する「不安」に非常に過敏な生き物だということを念頭においておきましょう。
危険を理屈で理解でき、自らの意思で回避できる人間と違って、犬たちは状況と自分の主観・感情でしか判断できません。
理屈で物事をとらえない犬たちにとって、
不安、つまりネガティブな気持ちは根深く犬たちの心を激震させます。
1.正しく伝わらないことがある

叱るしつけに効果がないのかといわれると、そんなことはありません。
正しいタイミングと適した方法、反復することで結果的に問題行動がなくなったり、コミュニケーションをとることができるようになります。
それがいいか悪いかはおいといて、長く広まってきた方法なだけに正しく行えば困っている行動を改善することはできるでしょう。
この「正しく」というところが大切で、正しく伝わらない理由をご紹介します。
1-1 タイミングが合わない

犬は直前直後の状況で、自分の行動を増やすか減らすかを学習していきます。
叱るしつけの学習理論は、
例)知らない人を見た⇒吠えた⇒叱られた(いやなこと)⇒吠えが減る
です。
叱るタイミングがずれると、なぜ叱られたのかわからなかったり、曲解したりすることがあります。
曲解されるケースで最も深刻なのが留守番中のイタズラです。
留守番中にイタズラしたことやトイレの失敗を帰ってから叱るとします。
当然犬はイタズラしたことやトイレの失敗で叱られたとは思いもしないので、「留守番する=飼い主に叱られる」という学習を重ねるのです。
「留守番=不安・怖い」という気持ちと結びつき、一人ぼっちになることが怖くて怖くて仕方がない状況になるのです。
結果、留守番のイタズラやトイレの粗相はよりひどくなるでしょう。
1-2 「なぜ」叱られたのかが伝わらない

このポイントで最も悪化しやすいのが、他の犬・人に対する攻撃行動です。
例えば知らない犬が苦手で、お散歩中他犬に吠える犬がいたとします。
そもそも犬は知らない犬に対して「嫌だからあっちいけ!」と吠えてるわけです。
そこに叱るという精神的負荷が加わると、知らない犬に対しての嫌だという気持ちがさらに増して、「怒られるから早くあっちいけ!!」という激しい攻撃行動に変わることがあります。
もし、叱って教えた結果吠えは止んだとしても犬へのネガティブな気持ちそのものが消えるわけではないので、叱らない人がリードを持った時に激しく吠えるということがあります。
これはリーダーだと認められていないから反応が変わるわけではなく、そもそも「犬が苦手」という気持ち自体を緩和できていないことに原因があります。
抱っこしているときに他の人が触ろうとして噛む、というのも同じです。
噛まないようにギュッと抱きしめたり、口をつかんだりして怒ったとします。
自分で逃げて距離をとることもできないだけでも充分不安なのに、叱られたらより「抱っこされた時に他人が近づく」というシチュエーションが怖くなるのです。
1-3 そもそも叱られたと思っていない

「NO!」「だめ!」と言って叱ったつもりが、「注目してもらえた」「構ってもらえた」というご褒美になってしまうケースです。
実はこれが一番多いかもしれません。
たとえば「吠えたら、だめだよ~っていうとやめるんです。」という場合。
これは犬が吠える目的が「構ってほしい・見てほしい」というものだったら、飼い主が声をかけてくれた時点で達成しているので吠えがやむのです。
知らない人に吠える⇒だめ!といって抱っこする⇒吠えやむ
を極限までやり続けたとします。吠えたらいいことがあった!と学習するとそのうち「ほら!吠えたよ!」と教えにくるようになります。
それから、このパターンでこじらせるケースでいうと犬の自傷行為です。
手をペロペロガジガジする⇒だめ!やめて!と声をかける、体を触って止める⇒いいことがあった
と学習すると、その犬は暇だったり注目してほしかったりするとそのアピールで手をかじるようになります。
2.犬が情緒不安定になる

叱られて「怖い」「不安」「嫌なこと」と感じた犬の中には、情緒不安定になるケースが多く見受けられます。
情緒不安定な状態が続くと、
・鬱に近い状態になり何も楽しいと感じられなくなる
・パニックになって吠えや噛みを自分で止められなくなる
・自分で動きを止められない(多動)
・常に不安にドキドキしているので、深い睡眠をとることができない
このような症状がでることがあります。
大体の場合、1ー2で解説した「なぜが曲解されて伝わっている」のと併発していることが多く、いつ怒られるのかドキドキして、過敏になってしまう子がほとんどです。
・ナデナデや抱っこなど、スキンシップしているときに急に怒り出す
・飼い主のそばから離れたがらない(分離不安)
こういった、一見叱っていることと直結せず、原因が不可解と思える行動も見えることがあります。
そもそも人間も含め、動物は「危険」に過敏な生き物です。
それに付随するネガティブな感情は、ポジティブな感情よりも強く根深くなるのです。
またもっと極論で言うと、NOだけで育てられた犬やNOを強く刷り込まれた犬は自分で考えて行動することができず、飼い主の指示がないと行動をとらなかったり、
一緒に遊んだりなでたりしてくれるのも「怒らないから安全、嬉しい」という情緒で、常に飼い主の顔色をうかがうようになることがあります。
嘘みたいな本当の話です。
3人間も情緒不安定になる

割と何事も動じない、感情のぶれが少ないタイプの方は該当しませんが、そうでない方の多くが当てはまるのが「人間も情緒不安定になる」です。
NOで教える、叱って教えるしつけは望まない行動を抑制して減らしていきます。
NOって言ってるのにやめてくれないことや、犬が失敗することが許せなくなり、感情的になってしまうのです。
また、失敗してしまったことに対して、「なんでうちの子はできないの…?」と悲しくなることもあります。
関係性が悪いのかもしれない。
なめられてるのかもしれない。
こんなに頑張ってるのにどうしてうまくいかないんだろう。
とネガティブさに引っ張られやすくなる方もいて、その勢いで感情をぶつけて怒ってしまうと、それはダイレクトに犬に伝わります。
そしてこうなると、「NO」を言わなきゃ!という気持ちから困った行動をとった時ばかり目につき、褒めるべきタイミングを見失ってしまうことがあります。
例えば、知らない人に吠えるというお悩みがあった場合、「吠えたらNO」と言い続けているとそればかりにとらわれて、吠えなかったときに特に何も言わない・褒めない・気づかない…といったことが起こります。
叱るしつけは副作用が多い

叱るしつけは間違った伝わり方をしてしまうことも含めて副作用が多い方法です。
また、最初に触れた通り叱っているつもりがなくても、犬がネガティブにとらえたらそれは叱っているのと同じです。
人間も、子どものときに叱られたり、抑制されて育つと大人になった時に周りの顔色を窺いすぎたり、ストレスをため込んで爆発してしまったり、褒められたい・認められたいという承認欲求が強すぎて生きづらくなってしまったり…
という話は最近よく見かけますよね。
犬も同じで、叱るしつけでたとえうまくいったとしても、それが彼らの幸せと直結しているかというとそうではありません。
そもそも、吠えるな、噛むな、排泄はトイレでしろ!というのは人間の都合です。
「うまくいった」という結果はこちらの都合であることを忘れないでいたいですよね。
「時々怒っちゃってる…」とドキッとしてしまった方はいませんか?
もちろん私たちも生き物ですから、犬たちと同じように不安や怒り、ストレスを感じてしまうのは仕方のないことです。
叱るのは悪だから絶対にやってはいけない!というお話ではなく、叱るというかたちで意図的にものごとを教えるのはよくないですよ、というお話です。
(もちろん叱らないに越したことはありませんが…)
ちなみに経験上最も多いのは1-3で紹介した「叱られていると思っていない」で、やめてと伝えたつもりがご褒美になっているケースです。
じゃあどうやってやめさせたらいいの!?
NOを使わないなら、どうやってしちゃいけないことを教えたらいいの?
と思った方もいるかもしれません。
詳しい話は、いずれ別の記事で触れようと思いますが、根本的に犬の行動には必ず理由があります。
・失敗させない(誤った学習を経験させない)環境設定
・困った行動の理由に合わせた対処法を選ぶ(不安の緩和なのか、これまでの学習を変えていくのか)
の2軸がキーです。
まとめ

いかがでしたか?
今回は叱って教えるしつけのデメリットについて解説していきました。
おそらくInstagramから経由してこの記事を読んでくださっている方にはあまり該当しないと思いますが、昨今出回っている動画では叱り方やNOの伝え方なんかを解説しているものもあるので、叱って教えた方がいいのかな?と迷ったときに参考にしてみてください。
自分の話になりますが、私(工藤)も学校に通っているときは、NOで教えるタイプの方法を用いていました。
かなり激しい「NOの使い方」だったこともあってこの方法は私にはできないと思い故郷を離れて上京し、就職先で陽性強化を学びました。
当時実家で一緒に暮らしていた犬には叱って教えていたので、行動学を学ぶたびにもっといろいろ楽しくできたらよかったな、実家で暮らしていた愛犬のストレスをもっと知ってやわらげてあげたかったなと思います。
その愛犬は上京してすぐに亡くなってしまったので叶うことはありませんでした。この強い後悔が、私がドッグトレーナーを続けている強い動機でもあります。
私のように後悔する人が少しでも減るようにとこの仕事をしています。
いつか自立する人間と異なり、犬は自分が身を置く環境を選ぶことができません。
せっかくお家に迎えたワンちゃん。家族として暮らすなら、ネガティブな気持ちで抑圧するのではなくのびのびと暮らしてほしいですし、お互い嬉しい・楽しいで出来ることを増やせた方がハッピーですよね。
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