こんにちは!大阪市福島区にある犬の幼稚園、oluolu dog schoolの工藤です。
当店ではトレーニングをする際に、トリーツ(オヤツやフード)を使って行う「陽性強化」と呼ばれるトレーニングを行っています。
トリーツを用いたトレーニングに対して、
「オヤツがないとやらない子になっちゃうんじゃ?」
と思っている方や、
「オヤツがないと何も言うこと聞かない」
「オヤツを見せると興奮してコミュニケーションどころじゃない」
と既に陥っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回はそんな疑問をもとに、上手なオヤツの使い方をご紹介します。
オヤツを使うと、オヤツなしではコミュニケーションが取れなくなる?
結論から申し上げると、誤った方法でトレーニングを行うとオヤツなしではコミュニケーションがとれなくなりますし、
正しい方法で行えばオヤツがなくても十分コミュニケーションがとれるようになります。
正しい方法でも、過程の一つとして最初誘導をしたり、おやつを始めに見せたりして導入することがありますが、ステップアップ方法を誤るといつまでもオヤツが抜けません。
オヤツを使うトレーニングのしくみ
当店でのトレーニングは動物行動学に基づいて行っており、トリーツもそのしくみに合わせて使用しています。
おやつの上手な使い方をお伝えする前に、まずはそのしくみについてご説明します。
難しい話になりますので、ところどころ割愛してお話していきます。
オヤツを気持ち作りに使う場合は「無条件刺激」として使う
無条件刺激(US)とは、それ単体で強い感情を持っている刺激のことを指します。
オヤツは特に過去の学習を積まなくても、「おいしい!」「嬉しい!」という感情を持っています。
この無条件刺激を用いて気持ち作りを行うことを「条件付け」といいます。
古典的条件付け
たとえば、おやつを開ける前のガサッという袋の開封の音。
これは初めは何の感情ももっていない刺激(中性刺激)です。
袋の開封の音⇒オヤツがもらえる
という学習を繰り返すと、「袋の開封の音」がオヤツを貰ったときの嬉しい気持ちと結びつき、袋の開封の音だけで喜ぶようになります。
袋の開封の音だけで喜ぶようになると、この音は条件刺激(CS)に変化します。
中性刺激が無条件刺激によって条件刺激になることを、【古典的条件付け」と言います。
他にも、
・「お散歩いく?」⇒散歩に連れていく
・「ご飯食べる?」⇒ごはんを与える
といった日常の何気ない言葉を覚えていくのは、この古典的条件付けによるものです。
トレーニングでは、「イイコ」という誉め言葉や「お名前を呼ばれること」をこの古典的条件付けを用いて嬉しい気持ちに変えていきます。
拮抗条件付け
古典的条件付けが何の感情もない刺激に対しておこなうものだとしたら、拮抗条件付けとは、嫌悪刺激(不快刺激)に対しておこなう気持ちづくりです。
たとえば、救急車の音、サイレン、知らない人、知らない犬、犬の吠え声、触られること、お手入れ(ブラッシング・歯磨き)などワンちゃんが「いやだ」「嫌い」と思っている刺激があったとします。
嫌悪刺激⇒無条件刺激
を繰り返し行うことで、嫌悪刺激に対する不快な気持ちを緩和・快情動にすることができます。
これを拮抗条件付けといいます。
行動を教えるときにおやつを使うのは「オペラント条件付け」
オペラント条件付けは全て説明するとかなり複雑化してしまうので、オヤツにまつわるところだけご説明します。
【正の強化】
きっかけ⇒行動⇒強化子⇒行動が増える
「オスワリ」という合図⇒座る⇒オヤツ⇒オスワリという合図があったら座るようになる
つまり、オヤツは「強化子」となるわけです。
この強化子はオヤツに限らず、行動が増える要因であればなんでも強化子になりえます。
強化子としてたびたびドッグトレーニングで用いられるのが「ナデナデ」や「おもちゃ遊び」です。
ただ、ナデナデはワンちゃんによっては好きじゃない子がいたり、状況によっては嬉しく思わない子もたくさんいます。
オモチャ遊びは有効的ではありますが、たとえばお散歩中、信号待ちのためにオスワリをしたからおもちゃ遊びをする…というのは難しいですよね。時と場所を選ぶのがオモチャです。
また、行動をとり続けていることを褒める(連続強化)うえで、ナデナデやオモチャ遊びは使うのが難しいのです。
そのため、oluoluではどのワンちゃんでも強化子になり、かつ時と場所をほぼ選ばないものとしてトリーツを用いているのです。
そして、正の強化の対になっているのが負の弱化です。
【負の弱化】
きっかけ⇒行動⇒弱化子(何も起きない、またはご褒美を取り上げられる)⇒行動が減少する
①ゴハンの準備を進める⇒吠えた⇒ご飯を貰えなかった⇒吠えなくなる
※一度学習した「行動」が、何も起きなかったことで減少することを消去といいます。
②飼い主と遊ぶ⇒甘噛みをした⇒飼い主がいなくなった⇒噛まなくなる
正の強化と負の弱化を組み合わせて、望む行動を教えていくのがオペラント条件付けに基づいた陽性強化トレーニングです。
オヤツがないとやらない子に…その原因は?
では、前述した「しくみ」を基に、オヤツがないとやらない問題について解説していきます。
原因1 順番を間違えている
オヤツがないとやらないワンちゃんの9割がこの順番間違いです。
逆条件付けの例①:拮抗条件付け
ブラッシングが苦手で逃げてしまうワンちゃんがいたとします。
オヤツがあれば受け入れてくれるけど、ないと嫌がって逃げてしまうというケースです。
本来ブラッシングのご褒美としておやつを呈示するべきなので、
ブラシを見せる⇒オヤツ
ブラッシングする⇒オヤツ
これが正しい順番です。
ただ、やっていく中で
オヤツを見せる⇒ブラシを見せる
オヤツをあげる⇒ブラッシングする
という順番になっていると、飼い主さんの手にオヤツが握られていないと逃げ回るようになるわけです。
もっと悪いと、ブラシを持っているときに出てくる「オヤツ」がブラッシングの嫌な気持ちと結びついて食べられなくなってしまうこともあります。
逆条件付けの例②:オペラント条件付け
【正の強化】は、
きっかけ⇒行動⇒強化子⇒行動が増える
この順番が肝心です。
行動の前におやつを見せびらかしていると、いわゆる「釣り餌」になってしまいます。
「きっかけ」の段階ではなるべくおやつを見せつけずに、かくしておくとよいでしょう。
原因2 導入からステップアップができていない
トリーツを用いた陽性強化は、トリーツを抜いていくところまで過程に含まれています。
オスワリ・フセ・マッテ・ツイテなどを教える際に、一番はじめ導入としてトリーツで誘導して教えることがあります。
ステップアップの過程でトリーツでの誘導などを減らしていきますが、ステップアップが不完全だと、いつまでも最初におやつを見せないと行動がとれなくなってしまいます。
また、導入からステップアップをする過程でトリーツのあるないを変動的にしていきます。
変動制を持たせることで行動頻度を増加することができるのです。
それも進み、行動が定着してきたらトリーツの代わりに誉め言葉(条件刺激)のみを用いてトリーツを抜いていきます。このタイミングの見定めを誤ると、なかなかうまくコミュニケーションが成立しません。
そしてもう一つ、ステップアップする上で大切なのが「分化強化」です。
Aを行ったときには強化し、Bを行ったときには強化しないことで、Bの行動頻度を減らす(消去すると言います)ことです。
たとえば、あるあるなのが、お散歩中の引っ張り。
A お散歩中、引っ張らずにアイコンタクトができた⇒褒めてオヤツがもらえた⇒強化
B お散歩中、引っ張った⇒前に進めず褒めてももらえない⇒弱化
と行うのが正しいやり方です。
しかし、
A お散歩中、引っ張らずにアイコンタクトができた⇒褒めてオヤツを貰えた⇒強化
B お散歩中、引っ張った⇒オヤツを見せてもらって隣に並ぶように誘導された⇒強化
となると、引っ張ることも一緒に強化されてしまいます。
引っ張りたい・匂いを嗅ぎたいという気持ちが強いワンちゃんだったら、好きにあちこち行ける上にオヤツももらえるBの方が行動頻度が増えるでしょう。
これも「オヤツがないとやらない」に繋がる原因の一つです。
原因3 せっかち
これはかなりコアな内容なのですが、トリーツを用いた陽性強化は「学習」が前提にあります。
自分の行動と結果を繰り返し学習して、自分で頭を使って行動するルーティーンをつくるのが基本です。
「言うことを聞かせる」ということにとらわれすぎて、ワンちゃんが思考する間もなく結論を急ぐと、ワンちゃんが持っている思考力を奪ってしまいます。
ワンちゃんのやる気やモチベーションを十分に引き出すことができず、不和やボイコットが起こって結果的にオヤツで釣るしかないという状態に陥りがちです。
たとえば、お散歩が大好きなワンちゃんがいたとします。
お外に出る前、ワンワン吠えたり扉をガリガリしたり、飼い主さんに飛びついたりして大興奮!
飼い主さんが「オスワリ!オスワリ!落ち着いて!マテ!!」といったことを言い続けても一向に落ち着かない。
しょうがないからオヤツを出すとオスワリができる、といった状況です。
これは飼い主さんが「オスワリができない」「オスワリさせたい」ということにとらわれて、そもそも興奮しているということを見過ごしてしまっているのです。
この時に出てくるオヤツはあくまで付け焼刃で、自分でどうしたらいいか考えない限り、お散歩前の興奮はやまないでしょう。
おやつを見せると興奮してしまうといったお悩みも、ワンちゃんが行動を選ぶのを待たずにコミュニケーションや順番があやふやになることで起こります。
原因3 褒めない
これについては行動学とは関係ありませんが、「強化子」をトリーツに頼り切って褒めずにいると、そもそもオヤツがなければ強化されないので、オヤツのあるないでやる気が変わってしまうでしょう。
オヤツはあくまで正解を伝えたり、気持ちをつくるツールであって、コミュニケーションの前提は犬と人のやりとりです。
人がつまらない気持ちだったり、ムスッとした表情でいるとそれは全て伝わってしまいます。
どんなに大好物を食べていても、目の前で怒っている人がいたらおいしく食べられませんよね。
たくさんの飼い主さんを見てきましたが、褒め上手な飼い主さんは愛犬との関係もかなり良好で、愛犬もオヤツがもらえるからというよりは飼い主さんと何かをするのが楽しいというモチベーションになっていくのが見受けられます。
すごいね!あなた最高ね!上手だね!ありがとう!
という気持ちは、オヤツではなく自分の言葉や表情、態度で伝えてあげましょう。
まとめ
いかがでしたか?
トリーツを用いたトレーニングは、行動を学習するしくみに沿って行わないとワンちゃんに正しく伝えることができません。
また、今回お伝えしたしくみも、過去の学習履歴などによって複雑になっているケースがあり、素直にトレーニングが進むとは限りません。
その場合は、一つ一つを分解して進めていく必要があります。
昨今、トリーツを用いたトレーニング方法を伝える動画なども多く見かけます。
かわいい一発芸を教えるのであれば、どんなやり方でも楽しくできればよいと思うのですが、日常の困ったことを改善したい、ワンちゃんと意思疎通できるようになりたいという場合は、しっかり学習工程を踏まないと失敗してしまうでしょう。
また、陽性強化と一口にいっても方法は様々で、正の強化と正の弱化(誤った行動を罰を与えて行動を弱化させる手法)を用いているスクールもあります。
当店では正の強化と負の弱化を用いることで、罰を与えずに犬のやる気を引き出していきます。
これまでオヤツを使ってトレーニングをしてみたけどうまくいなかった方や、オヤツを使ったトレーニングに懸念がある方は、まずは一度oluoluにご相談ください。
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